SSSs1〜それぞれの終戦〜

 

猪狩郁典 〜終戦を告げる使者〜

 氷よりも冷たく

 炎よりも激しく

 心に巣食う苦痛と憎悪

 それは長く遠い

 己を捨て

 己を忘れ

 忘我の境地に見出した無

 何も感じない

 苦痛も悲哀も

 何も感じない

 歓喜も快楽も

 僕はここでいい

 僕はこれでいい

 何故君は邪魔をした

 何故僕の平和を乱す

 苦しい

痛い

 怖い

 なのに何故こんなに懐かしい

 なのに何故こんなに暖かい

 君は『鍵』なのか

 僕の『鍵』なのか

 何の確証もない

 なのに何故

 賭けてみたい

 命を賭してでも

 君は『鍵』なのか

 僕の『鍵』なのか

終戦の鐘が響くとき真実は僕の手に

 打ち鳴らそう

 終戦の鐘

 僕は君の『鍵』になれるだろうか      〜終戦を告げる使者(完)〜

 

高井陽子 〜黎明〜

 負けちゃったんだ……あたしら……

 圭、ゴメンな……あたし、最後まで足引っ張ってたよな……

 あいつらは、みんなあの日のことを忘れちゃった……

 でも、あたしは覚えてるよ……

 圭と過ごした一週間……ほんとに楽しかった。

 会長には悪いけど、ずっとあのままでいたいって思ったよ。

 あたし、今まであんなに誰かを想って動いたことはなかった……

 人を信じたことなんて……

 ずっと『催眠術のせいだから』って思ってた。

 でも、違ったんだ。

 ほんとはあたし……二人に憧れてた……

 会長、ゴメンな……

 あたしのわがままで……あんなことになったんだもんな……

 圭、ありがとうな……

 あたしの夢、叶えてくれて……

 二人して、あたしのわがまま聞いてくれたんだよね……

 二人して、あたしの夢を一緒に見てくれたんだよね……

 もう、夢は終わったけど……

 会長、圭……それでも、まだあたし、幸せになれるかな?

「副長! 副長ってば!! そっちの番だって!!」

「ェ、えっ……?」

「何ぼっとしてんだよ! そっちの番だって!」

「あ、わりぃ……って、既に王手じゃないかッ!?」

「ふははははは! ぼさっとしている方が悪いッ!」

どがしゃーん!!

「かいちょ〜……副長がいじめるよ〜……!」

「あはは……諦めなよ会計」

「全く、毎度毎度よくこんなに騒げるな……」

 生徒会室、か……

「こいつらとなら、あたし……」

「ん? 副長、どうした」

「なんでもない! よっし、もう一局だ!!」       〜黎明(完)〜

 

立川圭 〜悪夢去り往きて〜

「はぁ……」

「どうしたの?」

「いいのかなぁ、って……」

「いいのかなぁ、って何が?」

「何って、あれに決まってるじゃない……あんなことしちゃって、私……」

「立川さん、それはもう言わない約束でしょ?」

「うん……でも、私へんなんだもん……」

「変って何が?」

「なんかね、夢でも見てたみたいで……全然自分が自分って感じしなかった」

「…………」

「やめて、って叫んでも……体が勝手に全部やっちゃうの。怖かった」

「…………」

「八十島君?」

「夢だよ……」

「え……?」

「悪い夢」

「…………」

「あれは、君じゃなかったんだよ。だから気にし―――」

「ちがう……あれは、確かに私だった。どんなに否定してもそれは事実なの」

「立川さん……」

「ねぇ、八十島君。私って、怖いの。危険な人間なの」

「立川さんッ! そんな―――」

「八十島君、聞いて」

「ッ……!」

「私、危険な人間なの。だからこそ、あなたが必要なの」

「…………」

「脆くて、弱いから……」

「…………」

「ねぇ、八十島君? 私、悪いとこいっぱいあるの。こんな、弱くて危ない」

「…………」

「けど、それも確かに私なの……あなたは全部、受け入れてくれるの?」

「立川さん……」

「…………」

「もう、悪夢は終わったよ……」

「……うん」                 〜悪夢去り往きて(完)〜

 

八十島修一 〜目覚めて見る夢は〜

 あれから数日が経った。

 今日はこの間の補填って言うことで立川さんと遊園地に

「あらぁ? あれ、高井さんじゃない?」

 二人、きり、で……

「やっぱり高井さんだわ。吉野君と橿原君もいるわね……」

 ……………………

「あッ! 猪狩君までいる!?」

 何でだよ……

「会長! この間は悪かった! ホントッ!」

 高井さんに土下座されてもねぇ……それなら何故今日来たんだ……

「ねぇ? 高井さん、今どういう状況か分かってる? アレ、して欲しいの?」

 あぁぁぁ〜〜〜……既に立川さんの笑顔が怖くなってるッ!

「い、いやいやっ! ちち、ちがう、違うんだッ!!」

 っていうか、他はともかくとして何故猪狩君まで……

「副長……無駄話せずに早くあれを……」

「わ、わかってるよ! えと、ほら、これ……」

 フリーパス?

「これ、今から行くところの……」

 もしかして、くれるの?

「あの……あたしらのせいで、前はあんなこと……」

「副長、あれは“忘れた”はずだろう……?」

「あ、あぁ……! そ、そうだった……」

 ……!

「八十島君、高井さんは……」

 あぁ、覚えてるらしいね……

「忘却暗示は完璧だったはずよ……」

 何故……

「なぁ、二人とも……受け取ってくれよ……あたしらの、気持ちなんだ」

 高井さん……

「高井さん、ありがたく受け取るわ」

「あ、あぁ! ほんと、悪かった!! じゃあ、あたしらはこれで……」

 ………………

「高井さん、ちょっと……」

 猪狩君も。

「「何?」」

 高井さん……

「あなた、あの時のこと……」

「……あぁ、覚えてる」

 やっぱり。

「忘却暗示は完璧だったはずよ? あなた、どうして―――」

「なんでかな、あたしもよくわかんないんだ……」

 猪狩君は、高井さんのこと知ってたんだね?

「あぁ、僕も最初は驚いたよ」

「なんかさ、忘れられないんだよね……初めて、だったから……」

「初めてって?」

「あたし……すごく、嬉しくて……楽しかったんだ」

 ………………

「あんなに、誰か一人を、想ったことって……心から、信頼したことって……」

「………………」

「圭、あんたはあたしを、心から酔わせてくれた」

「高井さん……」

「会長、あんたはあたしに、夢を見せてくれた」

 ………………

「あの一週間……忘れられない……」

「僕も……」

 猪狩君?

「僕も、あの一週間は忘れもしない……」

「あなたは、『鍵』だものね……」

 そうだ……彼がいなければ、あの時に僕達は……

「鍵、か……八十島君、僕は、君の鍵になれたのかな……」

 勿論だよ! 君がいなければ、僕達は終わりだった。

「そっか……やっぱり、君が僕の……」

 ……?

「いや、いいんだよ」

「えぇッ!? 会計が笑ってるッ!?」

「しかもにっこり、ねぇ……」

 そっか、二人は見たことなかったんだ。

「そうかそうか! ついに会計も笑えるようになったか!」

「フフ、じゃあこれでサイボーグ卒業ね」

「答えが出た。ついに、終わったんだ」

「ん? 会計、終わりってのはなんだよ?」

「僕の“過去”ってとこかな……」

「違うだろ? これから始まるんじゃねぇか!」

「え?」

 “未来”か……

「おいおい! 俺達も忘れるなよ?」

 吉野君に、橿原君?

「帰ったんじゃ……」

「何で俺達だけ除け者なんだよ」

「会長にしちゃ、手厳しいなぁ」

「生徒会執行部、勢ぞろいだね……」

「なぁ、副長……いや、高井。そんなに俺ら、信用ねぇのか?」

「猪狩も、何で一人で抱え込むんだよ」

「吉野……」

「…………」

「黎明、ね……執行部の……」

 これから、だね……

「私達もね……」

 あれは、悪夢だったのかな?

「ううん……だって、あれがあったからみんなこうして繋がったじゃない」

 そうだね。それとも、あれはあるいは悪夢だったのかもしれない。けど……

「けど、目覚めて見るその夢の続きは……」

 うん、みんな幸せになった。

「あなたが、救ってくれたのよ……」

 立川さん……

「これからも、いい夢を、よろしくね?」

 ……うん、こちらこそ!          〜目覚めて見る夢は(完)〜

 

小早川英明 〜愛は忘却の彼方に〜

 フ、フフ……いいんだよ、俺、もうこういうの慣れたもん……

 この一週間、何があったかよく知らんけどさぁ……

 また……

「夜の校舎に、置いてけぼりかよ……」    〜愛は忘却の彼方に(完)〜

 

〜それぞれの終戦(完)〜