〜催眠ジャンケン〜

「立川さん、予鈴なったし授業行こうか」

「……ねぇ、八十島君」

「何?」

「暇ね」

「ん〜……授業行こうよ」

「催眠ジャンケンしましょう」

「なにそれ……って言うか授業行こうよ」

「お互い催眠状態になって集中力を高めた状態でジャンケンするの」

「無視ですか」

「反射神経と反応速度と観察力が問われるわ……油断した奴から喰われるのよ!」

「……なんか凄そうだね……」

「じゃあはじめましょうか」

「あぁ、うん……」

『甘い淀み』

「……」

「う〜ん、今回のキーワードは長持ちするわね。さて、今日は何しよっか、八十島君?」

結局それがやりたいだけの立川であった。

 

 

〜小早川君〜

「ん……あいつら何騒いでるんだ?」

……

………

「あぁ立川さん、なんかもう何年も会ってなかった気がする

 ……って言うかまるで初めて会ったみたいな感じがするよ」

「もう、八十島君てば積極的ねぇ」

「何やってんだおまえら……」

「あら、見ての通りよ? 八十島君で遊んでるの」

「八十島『で』……」

「八十島君は今何を見てもそれを初めて見た時の感覚になれるのよ」

「ほぉ、なんか面白そうだな」

「あ、学校のグラウンド! すごい、広いなぁ!」

「ほらね?」

「なるほど」

「あれ? 小早川君、どしたの?」

「ん? ……いや、授業サボって……」

「う〜ん、授業はちゃんと出ないと……まぁ、僕らも人のこといえないけど」

「お、おう……じゃ、オレそろそろ行くわ……」

「うん、じゃあね」

……

………

「納得いかねー」

なんか釈然としない小早川であった。

 

 

〜穴〜

「……ねぇ、立川さん」

「何?」

「……やったでしょ」

「何を」

「授業、出た覚えないんだけど……」

「あら、忘れっぽいのね」

「じゃなくて……キーワード、使ったでしょ?」

「あら、使ったわよ?」

「だーかーらー、授業サボりすぎたらいくらなんでもまず―――」

『甘い淀み』

「……」

「ホントはしてほしいくせに……このキーワード、いつまでも消えないじゃない」

……

………

「ん〜、立川さん……」

「どうしたの?」

「なんかさぁ、今朝からの記憶が曖昧なんだけど……」

「よく寝てたからねぇ」

「いや、そういう感じじゃなくてなんていうか……穴?」

終わり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜儚い幻だとしても〜

あれ、僕はいったい何を……

そうだ、授業……

もう、どうでもいいや……

僕はいつも、立川さんといるとこうなってしまう……

ただ気持ちよくて、ずっとこうしていたくて……

催眠なんて関係ない……

彼女とともに過ごす時間、ただそれだけのことが……

この時だけは、何も感じない……

辛くない……

怖くない、痛くない……

ただ、ひとつだけ……

気持ちがいい……

彼女といる時だけは、ただそれだけでいられる……

周囲からの悪意、嫉妬……

こみ上げる疑念、欲望……

全部忘れることができる……

人間としては、それは間違っているかもしれない……

けど、僕はそれで、幸せだから……

例え嘘でも、偽物でも……

それがただの、儚い幻でも……

ただ、この二人の一瞬のために……

ただ、この刹那の幸福のために……

ただ僕は……

愚かしく君に、溺れる……

「八十島君、今から10数えるわ……ほら、ゆっくりと沈んでいく……」

 

                                                    催眠ゴッコ(完)