「俺、催眠術できるねんで。」

 

 

会話が止まった気まずい雰囲気を和ませるために出たその場しのぎの言葉のつもりだった。

 

 

「嘘!?」「マジで!?」「もうええってぇ〜。」「んならやってみてや!」

 

 

予想外の食いつきに慌てる。ネットで見た被暗示テストしか知らなかったからだ。

 

しかし、普段では会話の中心となることも少なかったのもあり、だんだんとその気になってきた。

 

 

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「しゃーないなぁ・・・んなら誰がやって欲しい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

取り敢えず両手を前に出してもらう。ネットで見たように赤ちゃんを寝かしつけるような優しい声をかける。

 

催眠に関する情報。嫌なことを無理にやらせることは出来ない、俺を信じないと出来ないということは話しておいた。

 

 

「だんだんと右手が重くなっていきます。力が抜け、水のそこに沈んでいくように。」

 

「左手はだんだんと軽くなっていきます。力が抜け、空に吸い寄せられるように。」

 

 

初めて人にかける催眠術。正しいかどうかもわからない言葉。それでも俺は好奇心に満ち溢れていた。

 

一瞬、危険かもしれないとも思ったが、今の俺には友人の反応を見ることのほうが重要だった。

 

暫く声を掛け続けていると、友人に変化が現れた。ゆっくりと腕が離れていく。

 

右手はおもりに引かれていくように。

 

左手は空へと飛んでゆく風船のように。

 

だんだん、ゆっくりとだが確実に両手の距離は離れていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「柴っち!アレ嘘やったやろぉ〜?」

 

「いや、マジびっくりした。俺普通に腕伸びたままやと思ってた・・・・」

 

「絶対嘘やわ〜。」

 

「・・・・・・ほんまに?嘘じゃないん??」

 

 

自分自身でも信じられなかった。あんな簡単に反応が出るなんて。

 

俺に催眠術の才能が有るのか?いや、それは無いだろう。

 

ネットで得た知識が良かったのか、友人がたまたま被暗示性が高かったのかのどちらかだろう。

 

それでも俺は歓喜に満ち溢れていた。おそらく普通の催眠術師からみたらいたって普通なことなのだと思う。

 

しかし、催眠に対し俺自身が少なからず疑心を持っていたこともあったのでこの結果は輝いて見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

催眠・・・氷山の一角ほどの知識しかもっていなかった俺は帰るとすぐに催眠に関する情報を調べた。

 

忘却暗示、驚愕法・・・・様々な専門用語をただ眺めているだけ。

 

学習とは程遠い行為だったが、それでも俺はまるで学者にでもなったかのような感覚を覚えた。

 

俺は催眠にハマってしまったようだ。

 

あの感覚。なんのとりえも無かった自分が周りの誰もが出来ないことをした超越感。

 

忘れられない。あんなに楽しいことがあったなんて。

 

どうやら本格的な催眠をかけてもらうのも素晴らしい気分になれるらしい。

 

今まで催眠を知らなかった自分が腹立たしい。アホ、俺のアホ!!

 

まぁいいや。これからの事を考えればいい。そんじゃ明日は本屋にでも行くか・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数ヵ月後、俺達はおのっちの家に遊びに来ている。テスト期間中なので皆で勉強をしていた。

 

 

「あぁー、疲れた・・・もぉええわ。ゲームでもするか!」

 

「なんやねんそれ〜。ってかお前ノート真っ白やんけ!何が疲れてん。」

 

「考えとったら疲れたんや!」

 

「まぁええがな・・・人間生きてたらそんなこともあるって。」

 

「ったく、人が一生懸命勉強しとるのに・・・ってお前も真っ白やんけ!」

 

「俺はちゃうの勉強しとったんじゃ!」

 

「は?もうテスト数学だけやろ?何勉強してたん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・催眠術。かけたろっか?」