生贄
僕はぽーっとしている意識の中で彼女の声に耳を傾けている。
「じゃぁ、今から私が三つ数えるとパーって意識が戻ってくるよ。」
彼女が「催眠覚えたから試させて!催眠は・・・」と理論を話し、誘導を始めてから、もう3時間はたっただろうか。
初めは催眠など興味はなかったし胡散臭かったので信じてはいなかったが、可愛い彼女の為だったらしょうがない。
軽く付き合ってやるか程度だった。
しかし、仕組みを聞いているうちに自分の思っていたことを見事根本から覆されたのである。
まったく…世の中の情報はどうなってるんだか…。
僕はメモを片手に説明している彼女に向かってつぶやいた。
「そうだよね!世の中の情報っておかしいよね?!あっ、話それちゃった。で、やらせてくれるよね?」

彼女は満面の笑みで僕を見つめる。
そんなに見つめられて嫌と否定する男はこの世にいるだろうか。
僕は当然のことながら二つ返事で許可をした。
まずは被暗示性テストと呼ばれている事をやるらしい。
ソファーに座っている僕の目の前で振り子のようなものを準備している。
しかし、彼女がこんな趣味を持っていたとは…世の中不思議である。
「おまたせ」彼女の持っている資料にふと目を向けると先程の二倍に増えている。
「いよいよ僕は生贄となるのか。君の為ならべ…」
「はい、コレ持って」とりあえず言われたとおりにしてみる。
「じゃぁ、振り子見ててね、そうやって見ていると振り子が言われたとおりに動いていくよ。
右に、左に、前に、後ろに、回るよ。
もっと回る」

僕は彼女が言っているとおりに動く振り子が不思議でしょうがなかった。
しかし、それよりも気になることがある。
相手はモデルをやっていてもおかしくない程の美女だ。
多分普通の男性ならドキッくらいで済むだろうが僕は違う。
なんたって自分の彼女だから余計である。
「じゃぁ、私の目を見て」僕は胸の高鳴りを抑えて彼女の目を見るが恥ずかしくて長時間見ていられない。
たまらず目を閉じる。
「じゃぁ、今から私が数を数えるけど、数が増えていくにつれて水の中に沈んでいく感じがするよ。勿論息はできるから安心して」
「ひとーつ、ふたー…」彼女の長い髪が僕の手に触れたり、息が顔にかかったりしているもんだから、
ドキドキしっぱなしで集中してと言われても無理な話だったが、
時間が経つにつれて彼女の声が頭の中に反響して何処か、空からダイブして漂っているような感覚に陥る。
このまま寝そうという中で覚醒らしい…このままで良いんだけどな。
「ひとーつ、ふたーつ、みっつ。おはよう!」僕の肩を一瞬だけギュッとする。
そのまま抱きしめて欲しかったがありえない話だ。
そんなことを考えながらまだ少しぽーっとしている頭で言葉を返す。
「あぁ。おはようさん。」
「おはよう!どうだった?」興味深々といった顔だ。
「まだぽーっとしてるんだけど…まぁ気にしないでおくよ。一番簡単に言えば気持ちよかったよ」
「そう、良かった☆」満面の笑みである。この笑みを見ていると、途中あんなことを考えていた自分が恥ずかしくなってくる。
まっ、言わなければ分かるまい。
「じゃぁ、新しいの覚えてくるからまたやらせてね。それじゃ、バイバイー」
「あぁ。今日はありがと。じゃぁな」
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