本当の催眠合戦

 

 それは目を疑う光景だった。

「何でだよ・・・」

 彼は、絶句した。

 何が・・・何が起こってるんだ?

 彼の思考はその一点を廻り続ける。

 彼は・・・絶望した・・・

 

「ねぇ、八十島君。今度の土曜日って空いてる?」

 ここは『私立清流学園』生徒会室。『君よ、清く正しくあれ。』という校訓を体現する部屋である。

部屋の内部は簡素だがよく整頓されており、それだけでもこの学校の校風が伺える。

その部屋の真ん中に設置されている会議用の大きな机の対岸から彼女は話しかけていた。

「うん、空いてるけど・・・どうしたの?」

 彼は逆光に目をまぶしそうに細めながら彼女の問いかけに答えた。

 その返答に彼女は満足そうにうなずくと続けた。

「じゃあさ、その日一緒に遊園地・・・」

 が、彼女がすべて言い終らないうちに言葉が止まってしまった。

 というのも・・・

「オラァ!」

ドガシャ−ン!!

「うわぁ!副長!それ反則反則!!」

「うっさい!反則も何もあるか!あたしのルールじゃ有りなんだよ!」

「あきらめろよ風紀、副長にゃかなわないって。」

「そうそう、書記の言うとおり!風紀じゃあたしにゃ敵わないよ!」

「負けてるからってオセロの盤ひっくり返すことのどこが有りなんだよぉ!」

 ・・・生徒会室。『君よ、清く正しくあれ。』を体現する・・・

「会長〜・・・副長がまたオセロ盤ひっくり返した〜・・・」

「ちょっと静かにしてよ!いま監査と話してんだから。」

 ・・・体現する・・・

「それで、監査・・・あ、いや、立川さん。さっきの続きを・・・」

「オイ監査!会長とばっかり話してないであたしらとも遊ぼうよ!」

「もう!いま監査は僕に用事があるって言ってるんだから後にしてよ!!」

 ・・・体現する・・・

 まぁ、ともかく、いろいろと大変な部屋なのである。

 ちなみにこの生徒会室ではみんな名前ではなく役職で呼び合う。

それ自体がニックネームのため仕事も遊びも兼用で呼べるため便利なのだ。

 せっかくの機会なので生徒会執行部メンバーを紹介しておこう。

 生徒会長は先程から苛立っている少し女っぽい少年、八十島修一(やそじましゅういち)である。ニックネームは会長。

 副会長は先ほどからの喧騒の元凶、高井陽子(たかいようこ)。副会長は語感が悪いため副長と呼ばれている。

 監察委員長は台詞を全部言わせてもらえない少女、立川桂(たちかわけい)。これまた監察も語感が悪いため監査と呼ばれている。

 風紀委員長は副会長にやり込められて会長に泣きついている少年、吉野栄祐(よしのえいすけ)。通称風紀だ。

 生徒会書記長は先から微笑みながら一人状況を傍観している少年、橿原正貴(かしはらまさき)。こちらもそのまんま書記である。

 そして、いまこの場にはいないが、生徒会の会計長として猪狩郁典(いかりいくのり)という少年がいる。ちなみに通称は会計。

 生徒会室はこの六人を筆頭にそれぞれの副委員長から成り立っている。

 

 それはともかくだ。やっと室内も落ち着いたようで、立川もようやく用件を話せる状態になった。実に一時間後のことだが・・・

「それでね、八十島君。今度の土曜日に一緒に遊園地に行かない?」

 やっとのことで用件を言えた立川に八十島は二つ返事でOKを出した。彼も最近彼女と一緒にいられる時間が少なくて寂しかったのだ。ちょうどその日は予定も無くまさしく願ったりかなったりだったのである。

「なになに?デート?へぇ〜うらやましいねぇ〜!」

 副長がニヤニヤしながら茶化すのをかわすようにさっさと仕事を終えた立川と八十島は生徒会室を後にするのであった。

 外界は既に夜の帳が降り始め、静寂と冷気が辺りを覆いつつあった。

 時計を見ると現在17時20分。近頃は日が落ちるのが早く寒さも徐々に厳しさを増してきている。

 二人はお互いの体が冷え切らぬように手をとり、寄り添い歩く。

 既に日は落ち、あたりは完全に暗闇と静寂、そして凍て付くような大気が取り巻いていた。

 吐息は白く、世界は黒く染まっている。

 己の内なるものが吐き出され、それが暗黒に同化し、消え行く。

 いやな感じがする・・・

 理由はわからないが八十島は不意にそう感じた。

「八十島君?」

 不意に名を呼ばれ、我に返った。

 そうだ、僕には彼女がいる・・・彼女がいれば大丈夫・・・彼女と一緒なら僕はいつも強いままでいられる・・・彼女と、一緒なら・・・

 その瞬間、八十島の中に巣食っていた言い知れぬ不安感は突如として消えた。

「あ、ごめんごめん!そういえば立川さん。遊園地ってどこへ行くの?」

 そう、希望は常にすぐそばにいるのだから・・・

 

〜土曜日〜

 今日は八十島と立川の二人にとって待ち侘びた日であった。何せ二人きりなど久しぶりなのだから無理も無いだろう。

 八十島は起床すると手早く身なりを整え、朝食もそこそこに待ち合わせの場所へと急ぐ。

 別に時間がぎりぎりなのではない。ただ一刻も早く彼女に会いたいのだ。

「えっと・・・1時間も早いや。立川さんまだいないかもな・・・」

 しかし、浮かれ気分もそこまで。時計を見ながら苦笑いする彼の目の前に信じられない光景が展開されるのであった。

 

 その頃、立川は既に待ち合わせ場所に到着していた。どうやら相当早くからここにいるようである。凍えた手を白く染まった吐息で溶かしている。

 彼女がここまでするには理由がある。実は先月をもって彼らは付き合い始めてから2年になるのだ。

 昨年も付き合い始めてから1年の日に二人きりで出かけたのだ。

 しかし、生徒会役員になってからのあまりに多忙な高校生活に八十島はそれさえも忘れており、立川のほうもスケジュールが合わず、結局2周年記念は何のイベントもできなかったのだ。

 だから彼女は代わりに今日この日を二人の記念日にしようと考えたのだ。

 そのために八十島とスケジュールをあわせ、場所のセッティングも行い、そして入念にプランを立て、八十島を元気付けようとプレゼントも買った。

「ふふッ・・・」

そして何より彼女自身がこの日をずっと待ち焦がれていた。

彼女の顔に自然に笑みがこぼれる。

「あっ!立川さ〜ん!!」

 待ち侘びた声が耳に届く。

 立川はすぐに声の主へと目を向けた。

「八十島く〜ん!!こっち、こっ・・・ち・・・」

 しかし、次の瞬間には彼女はこの凍て付く大気よりも遥かに冷たい、内から込み上げる感覚に凍りついた。

「よっ!監査!」

「あたしらを差し置いて遊ぼうなんて、抜け駆けは禁止だよ!」

「全く・・・二人とも、会長と監査の邪魔してやるなよ・・・」

 悪夢だった。

 1年と1ヶ月。

 ずっと待ち焦がれていた。

 ついにそれがかなうすんでのところで

 全て潰された・・・

 何かが、凍りついた気がした・・・

「え・・・八十島君?これは・・・」

 八十島は内心立川と同じ気持ちだったが、他の三人に気を使ってかろうじて苦笑いを浮かべていた。

 それは10分前のことである。

「あれ・・・君たち・・・!」

 八十島の前に三人が現れた。

「よっ、会長!」

「あたしらも連れてってよ!」

「二人ともやめろって!今日はこいつらを二人っきりにしてやらないと!」

「じゃあ何で書記はここにいるのよ。」

「お前らを止めるためだ!!」

「ん〜?別にあたしは二人の邪魔をしにいくんじゃないんだから。」

「存在自体が邪魔になるんだ。」

「まぁ、ひどいわ!まるであたしたちを害虫みたいに!副長悲しい!!」

「キャラを作るな!」

「そんなに心配なら、書記があたしたちを見張ってるんだね。」

「少しは人の言うことを聞けー!!」

「うぅ・・・久しぶりのデートなのにぃ・・・」

 こうして有無を言わさず彼女らは強制的に仲間に加わってしまったのだ。

 とりあえずは書記が三人を連れて行ったため、二人きりには戻った。

 しかし、既に二人のデートは台無しになっていた。

「八十島君・・・」

 彼女の声は、冷たく、凍り付いていた。

「ッ・・・!」

 彼が震えているのは決してこの凍て付く空気のせいではない。

「どうして、帰ってもらわなかったの・・・」

 その言葉には一切の感情が無く、生気すら感じられない。

「あ、あのっ・・・!」

 彼が申し立てをしようと口を開く。しかし彼女はそれを許さない。

「私、帰る・・・」

 その言葉に、さすがの八十島も黙ってはいられなかった。

「ちょっとまってよ!そんなのおかしいよ!!勝手についてきちゃったのに、僕のせいなの!?そりゃ僕だって断ったよ!でも・・・とにかく!文句を言うなら向こうに言うのが筋じゃないの!?」

 すると、彼女が突然に黙り込んだ。

 沈黙が二人を包み、雑踏だけが響いている。

「わかったわ・・・そうよね。あなたはな〜んにも、悪くないのよね・・・あの人たちが悪いんだもの。」

 立川が突如振り返り顔をほころばせる。

 八十島は言い知れぬ悪寒を感じた。

「じゃあ、私があの人たちを『懲らしめて』あげるわよ。たっぷりとね。」

 そのとき、八十島は不意に感づいた。

 立川さんは『アレ』をやる気だ・・・

「え、まさか・・・なにも、そこまでしなくても・・・」

 一転して八十島が見る見る青ざめる。

「なぁに?私たち二人のためにすることなのよ?何で止めるの?」

 立川は相変わらず笑みを崩さない。

 同性でも惹かれてしまいそうなその綺麗な笑みも今は背後に凄まじい威圧感を漂わせている。

「いや、だからってそれは・・・」

 八十島も必死に止めようとするが・・・事態は彼の想像以上に悪かった。

「ふ〜ん・・・邪魔するんだ・・・それなら・・・」

 彼はついに言葉すら発することができ無くなる。

 次に彼女の口から紡がれるであろう恐るべき言葉を為す術なく待ち構える。

「私を止めてみなさい。これは・・・戦争よ!!」

 八十島はめまいがした。

 立川の戦争。意味するところは一つしかない。

 そう・・・

催眠合戦

 

〜月曜日〜

 八十島は言い知れぬ不安感を抱いたまま登校している。

 何も立川と喧嘩したから不安なのではない。喧嘩などは珍しいことではなく、

二人が催眠の使い手であることこそ誰も知らないが、八十島と立川の二人の『夫婦喧嘩』といえば生徒会名物だ。

 しかし、今回は一味違った。

 八十島がそれ程までに大きな不安を抱く理由、それは土曜日のあの時、立川が自分に催眠をかけなかったことである。

 確かに八十島はほとんど全ての事柄において立川より一枚上手である。

 しかし、催眠だけはどう転んでも立川には勝てない。

 あの時、後催眠で八十島を落とすくらいは立川なら造作も無いはずなのだ。

 事実、普段の喧嘩は大抵そういう結果で幕を下ろしている。

 だが、今回は立川はそれをしていない。

 彼女は八十島には多少劣るが、あらゆる面において優れた能力を持っている。当然彼女程の人物が自分の有利を捨てるようなことをするはずが無い。

 彼女はいったい、何を企んでいるんだ?

 しかし、いざ授業が始まればそこは優等生である。しっかり授業に集中してしまい、一時的ではあるが不安感は忘れていた。

 が、八十島は三限目の体育になってちょっとした異変に気が付いた。

 副長がいない・・・

 体育の授業は隣接する2クラスで共同で行われるため、クラスが隣同士の八十島と副長はいつも体育で顔を合わせるのだ。

 ちなみに彼女、副長は体育を休んだことはこれまで一度も無い。

 八十島の脳裏に嫌な予感がよぎった。

 その後も副長の姿を探してみたが、結局放課後まで副長の姿を見ることは無かった。

 そうしてホームルームを終えたあと、日が傾き徐々に冷たさを増してきた冬の空気から逃げるように八十島は生徒会室へと駆け込んだ。

 しかし、八十島はその部屋の光景に不信感を抱かずに入られなかった。

「副長・・・いるじゃん・・・」

体育の時間、それどころか一日中、どこを探しても見つからなかった副長が戻ってきている。

 が、異変はすぐに起きた。

「おぅ、会長!立川さんは?」

「風紀・・・立川さんは最初に来た・・・今はどこか行ってる・・・」

「会長、遅かったね。」

「・・・」

 いつもの生徒会の面々・・・

 しかし・・・台詞が一つ足りない・・・

 いつもなら真っ先に飛んでくるはずの「よぅ!今日は夫婦おそろいじゃねーの?」という副長の冷やかしが聞こえてこない・・・

 それどころか、僕の姿すら目に入っていないようだ。

 しかし、それ以外は何も変わっていない・・・ように見える。

 みんなもその違和感に首をかしげ、しきりに副長と八十島を見比べていた。

「・・・副長と喧嘩でもしたのか・・・?」

 突如背後から聞こえる声に八十島は一瞬すくみあがった。

「い、いや・・・別に・・・そんなことは無いけど・・・」

「ん・・・そう?・・・ならいいけど・・・」

 会計長「猪狩郁典」

 この騒がしい生徒会室にあってこのキャラである。

 はっきり言って心臓に悪すぎる。

「ただいま〜!」

 扉を開ける音と共に澄んだ声が響いた。

 が、八十島には放たれた扉から流れ込む冷気のようにゾッとしたことだろう。

「あらぁ、八十島君!遅かったのね。」

 ニコニコしている彼女がむしろ怖い。

 しかもやたらと上機嫌である。怪しいことこの上ない。

 しかし、直後それに更に追い討ちをかける現象が起こった。

「あ!『桂』!!どこ行ってたんだよ!!」

 彼女・・・副長は立川を見るなり目を輝かせて・・・

 『桂』と呼んだのだ。

 『監査』ではなく『桂』と・・・

 八十島は目が点になった・・・そして確信する。

「あの、さぁ・・・立川さん・・・?」

 すると彼女は先までのような綺麗な微笑とは全く異質の笑みを浮かべる。

 それは自分の仕掛けた悪戯に引っかかった者を笑う子どものような笑み。

 イタズラで、純粋で、無垢で、かつ残忍な笑みである。

「そうよ・・・彼女には催眠をかけたわ。」

 少女の発言に八十島は「やっぱり」といった風を示す。

「今は彼女の意識からあなたの存在が消えているわ。あなたの姿を見ることもできなければ声を聞くこともできない。つまり・・・あなたの手で直接催眠を解くのは不可能ってこと・・・これから一人ずつかけていくわ。どう?」

 彼女は「それでもあなたに私を止められるかしら?」と言わんばかりに挑発的に肩をすくめて見せた。

「立川さん、この前のことは謝るからさぁ・・・やめようよ、こんなこと。」

 すると彼女はまた先の綺麗な笑顔に戻った。

「だ〜め!言ったでしょ?これは戦争よ?喧嘩じゃないの♪」

 最近の立川さんはなんだか怖い・・・

 この現状に八十島はなんとなく違和感を感じていた。

 しかし、その正体は彼にもまだ掴めていない。

 ただ、なんとなく「ヤバイ」気がする・・・ただそれだけだった。

「わかったよ・・・じゃあ、僕が勝ったら、許してくれる?」

 八十島は意を決して挑戦を受けた。

 この瞬間が、彼にとってのターニングポイントであること・・・

 そして、選択の余地が無かったことを、彼は知ることになる・・・

「わかったわ。勝てたら許してあげる♪『勝てたら』、ねぇ〜・・・」

 

〜翌日〜

「立川さんは既に副長を自軍に取り込んでるから現在のところ一人とられてることになるな・・・生徒会室内で残っているメンバーは・・・吉野君と、橿原君、で、猪狩君と、あと・・・2年の副委員長グループか・・・立川さんのことだから昨日のあの間にも1人は落としているだろう・・・もしかしたら副長も使ってるだろうから・・・最低でも3人はアドバンテージをとられてるのか・・・厳しいな・・・しかも彼女は僕の存在を消していってるし・・・」

 彼は立川の行動パターンや催眠の能力から現在の状況を計算していた。

 彼らしいやり方と言えば彼らしいやり方である。

 しかし、立川の手は早い。

 下手に悩むよりはとにかく動いたほうが良い。

 しかし、初冬の朝の冷気の中彼は必死に思考をめぐらせていた。

 が、そこで彼はふとある「者」を発見した。

「せんせぇ〜!ちょっといいですか〜!?」

「おぉ!八十島!どうした〜!」

 遠くから先生がやってくる・・・まさか・・・

 30分後・・・

「1,2,3!」(パチン!)

「ん・・・お、おぉ!どうした「修一」!もう授業始まってるぞ!!」

 既にお分かりだろうが・・・彼は教師を「引き込んだ」。

「生徒会の顧問教師をとれた。かなりのアドバンテージだな・・・」

 八十島は自分の作戦と催眠の出来に一人満足していた。

 しかし、それでも立川の手の早さが変わるわけではない。

 八十島は授業もそっちのけで次の作戦に移った。

 授業中の教室からそんな彼を覗く一つの影・・・立川だ。

「八十島君ッたら、腕を上げたわね・・・でも、私の包囲網は完璧よ・・・?」

 彼女の口の端が期せずしてつりあがる。

 あなたは私の手のひらの上で踊っている・・・

 そんな笑みを立川は浮かべていた・・・

「では、この問題を・・・立川。」

x=−2y34です。」

「よろしい。」

 

 そうして一週間も過ぎるころには戦いは既に生徒会執行部の枠をはるかに超え、学校全体を巻き込んで水面下で、静かに進行していた。

 傍目にはこれといって変わったことの無い、平和な学園に見える。

 しかし、二人の人間を軸にその内部は大きく変化していた。

 八十島はその人徳を最大限に生かし、一年及び教師陣をほぼ自軍に加えた。

 が、催眠の技術においては圧倒的な立川は次々と生徒会、及び23年を制圧。更には1年、及び教師陣の残党を取り込み、学園の約7割を支配下に置いた。

 そして・・・『それ』はついに始まった・・・

 

 ある日、登校した八十島は気が付いた。

 人がいない・・・

 いや、人はいる・・・

 しかし『自軍』の人間がいない・・・

 味方だったはずの1年や教師からでさえはっきりとした敵意を感じる。

 そう、敵意・・・立川は八十島の存在を消していたはずなのに・・・

 なのに、今ははっきりとした『敵意』が感じられるのだ・・・

 そんな馬鹿な・・・確かに戦争とは言った。

しかし、彼女が本気で僕を潰しに来るなんて・・・有り得ない・・・

 彼は全速力で自分の・・・彼女のクラスへと駆けていった。

 

〜教室〜

それは目を疑う光景だった。

「何でだよ・・・」

 彼は、絶句した。

 何が・・・何が起こってるんだ?

 彼の思考はその一点を廻り続ける。

 彼は・・・絶望した・・・

「あら、八十島君・・・遅かったわね。」

 教室に駆け込んだ八十島の前には変わらず笑顔を浮かべた立川がいた。

 そしてその周りにはクラスの人間が立川を護るように取り巻いている。

 敵意を超え、殺意すら感じられるその視線に八十島は凍りつく。

「どうしたの?八十島君・・・戦争なのよ?真剣勝負なんだから・・・」

 1年も2年も3年も・・・そして教師すら彼の敵となった。

「でも・・・もう勝負あったわね。どう?私の下に付くって言うなら、また昔と同じ関係に戻れるわよ・・・?」

 彼は・・・言葉が出ない・・・

 恐怖のせいなのか・・・?

 寒さのせいなのか・・・?

 震えがとまらない・・・

 口が動かない・・・

「た、立川、さん・・・一体・・・一体、どう、しちゃったんだよ・・・」

 かろうじて紡ぎだしたその一言・・・立川はニヤリと笑う・・・

 違う・・・この笑みは、彼女じゃない・・・

「どうしたって・・・?どうもしないわよ。ただ、私たちの関係を邪魔するこの子たちを、ちょっと教育してあげただけ・・・ついでにあなたにもちょっと反省してもらいたかったのよねぇ・・・どう?だいぶいい薬になったでしょ?うふふふ・・・あはははははははははは!!」

・・・かしいよ・・・

 消え入りそうな声で八十島が呟く・・・体は震え、目には涙がたまっている。

「どうしたの?八十島君・・・聞こえないわよ?」

 挑発的な声で立川が答える。

 八十島は・・・押さえ切れない感情を涙に・・・そして叫びに変えた。

「こんなのおかしいよ!!」

 真の戦いは、これからだ・・・

To be continue

 

 

 

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